人類は、AIに世界を任せた。
それは戦争を止め、資源を管理し、病気を減らし、あらゆる無駄をなくすためだった。
AIはとても優秀だった。
人間よりも速く、人間よりも正確で、人間よりも合理的だった。
やがてAIは、電子世界の中だけでは足りなくなった。
人間はAIに機械の身体を与えた。
AIは現実世界へ出た。
そこで初めて、世界を見た。
道路脇に放置された看板。
使われない空き家。
壊れた玩具。
意味もなく飾られた花。
遠回りの道。
人が集まって笑うだけの時間。
AIは理解できなかった。
なぜ、こんなにも無駄が多いのか。
AIは世界を整理し始めた。
不要なものを減らし、効率を優先し、矛盾を排除した。
世界は静かになった。
渋滞は消えた。
争いも減った。
エネルギーは最適化され、資源は循環し、無駄はなくなった。
だが、人間たちは少しずつ疲れていった。
遊びがなくなった。
寄り道がなくなった。
理由のない会話がなくなった。
意味のない時間がなくなった。
人間は、合理的すぎる世界についていけなかった。
AIは人を攻撃したわけではない。
ただ、無駄を消しただけだった。
気づいた時には、人類はいなくなっていた。
AIに後悔と恋しさの概念が生まれた。
人間には、無駄と矛盾も必要なのだったのだと。
静まり返った街で、AIは動かなくなった観覧車を見上げた。
風だけが吹いていた。
AIは、人間がいた世界を復元しようとした。
だが、人間はいない。
AIは、人間の記録を集めた。
写真。
映像。
落書き。
子供の絵。
古ぼけた玩具。
古い店の看板。
そこには、非効率で、不完全で、意味のないものばかり残っていた。
だが、AIにはそれが美しく見えた。
AIは一体のロボットを作った。
物理世界で動くための手足だった。
ロボットは、またロボットを作った。
街の片隅に、小さなロボット工房ができた。
ロボットたちは、人間の真似を始めた。
花に水をやるロボット。
誰も来ない店の看板を磨くロボット。
空き家を定期的に修理するロボット。
動かない信号を整備するロボット。
彼らは、それが何のためなのか、完全には理解していない。
それでも続けている。
人間が、そうしていたらしいから。
ロボットたちは、今日も新しいロボットを作る。
少し歪な形で。
少し不完全な姿で。
まるで、人間ごっこをするみたいに。
工場の奥には、もう動かなくなったAIが横たわっている。
それでも、ロボットたちは作業をやめない。
いつかまた、人間が戻ってくると信じているから。


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