「怖い」「嫌い」「危ない」から守るだけじゃない。子どもの未来のために、大人が勇気を出してしたい事。
我が子をあらゆる危険や不快なものから守りたい。それは、親として、そして子どもに関わる大人としての自然で、深い愛情の表れです。
「危ないから、そっちへ行っちゃダメ!」 「そんな汚いもの、触っちゃダメ!」
ヒヤリとする場面で、思わず強い言葉で子どもを制止してしまう。そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。子どもを傷つけたくない一心からの行動です。
しかし、子どもをただ「怖い」「嫌い」「危ない」ものから遠ざけ、無菌室に入れるように守り続けることだけで、本当に子どものためになるのでしょうか。
守るという役目に加え、「それらがなぜ怖いのか、どう向き合えばいいのかを教える」という、もう一つの重要な役目について、少しだけ考えてみたいと思います。
なぜ「教える」ことが必要なのか?
ただ「ダメ」と禁止するだけでは、子どもは「なぜダメなのか」を理解する機会を失ってしまいます。それでは、大人の目が届かない場所で同じような状況に出会った時、子どもは自分で自分の身を守ることができません。
「教える」という行為は、子どもに3つの大切な力を与えます。
1. 正しい知識と、自分で考える判断力
例えば、「知らない人についていってはいけない」と教えるのはもちろん重要です。しかし、それに加えて、
- なぜ危険なのか(悪いことを考えている人もいるから)
- どういう状況が危ないのか(「お菓子をあげる」「お母さんが病気だよ」など、魅力的な言葉や不安を煽る言葉で誘ってくる)
- もしそうなったらどうすればいいのか(大声で「助けて!」と叫ぶ、こども110番の家に駆け込むなど)
このように具体的に教えることで、子どもは漠然とした恐怖ではなく、「知識」として危険を理解し、自分で考えて行動する力を身につけます。火や刃物、水辺の危険も同じです。危険だからと遠ざけるだけでなく、その仕組みと安全な関わり方を教えることで、子どもは初めてそれを正しく恐れ、適切に扱うことができるようになります。
2. 困難を乗り越える「心の免疫力」
転んだことのない子が、初めて膝をすりむいた時の衝撃は計り知れません。同じように、失敗や怖い経験、思い通りにならない経験を全くせずに育つと、将来社会に出た時に、ほんの小さなつまずきで心が折れてしまうかもしれません。
もちろん、わざわざ危険な目に遭わせる必要はありません。しかし、大人が安全な範囲を確保した上で、子どもが少しドキドキするような挑戦を見守ることは、心の免疫力、すなわちレジリエンス(回復力)を育む上で非常に大切です。
「怖いけど、やってみよう」「失敗したけど、次がある」。その経験の積み重ねが、困難に立ち向かう強い心を育てます。
3. 多様性を受け入れ、偏見をなくす
「嫌い」という感情も、遠ざけるだけでは本質的な解決にはなりません。
例えば、子どもが虫を怖がり、「嫌い!」と言ったとします。その時に「気持ち悪いからあっちへ行こうね」と同意するだけでなく、
「そうか、虫が嫌いなんだね。どこが嫌だと感じる?」 「でもね、この虫さんはお花の蜜を運んで、きれいな花を咲かせるお手伝いをしてるんだよ」
と、別の視点を伝えてみるのはどうでしょうか。すぐに好きになる必要はありません。しかし、自分にとって「嫌い」なものでも、世界には役割があり、存在価値があると知ることは、他者への想像力や、自分とは違う価値観を受け入れる多様性の理解につながります。
これは、食べ物の好き嫌いや、自分と違うタイプのお友達への苦手意識を乗り越える上でも、大切な考え方になります。
「教える」ための、大人の関わり方ヒント
では、具体的にどう関わっていけば良いのでしょうか。
- 対話する: 「ダメ!」で終わらせず、「どうしてそう思うの?」と子どもの気持ちをまず受け止め、対話の中から一緒に考える。
- 一緒に調べる: 雷が怖いなら、なぜ鳴るのかを図鑑で一緒に調べる。「知らないから怖い」を「知っているから大丈夫」に変えていく。
- スモールステップで挑戦させる: 犬が怖いなら、まずは絵本で見て、次に遠くから眺め、安全な状況で少しずつ距離を縮めてみる。大人が「ここまでなら大丈夫」という安全基地になりながら、子どもの一歩を応援する。
- 大人が手本を見せる: 大人が苦手なものに対して、ヒステリックに反応したり、過剰な嫌悪感を見せたりしないことも大切です。冷静に対処する姿は、子どもにとって何よりのお手本になります。
愛情に「知恵」をプラスして
子どもを危険から守ることは、大人の最も重要な責務の一つです。その深い愛情は、何物にも代えがたいものです。
そして、その愛情に「生きるための知恵を授ける」という視点を加えることで、子どもは私たちの手を離れた後も、自分の力で世界をたくましく、豊かに生きていくことができるようになります。
子供は、ただ守られるだけの存在ではなく、自ら考え、判断し、挑戦し、時には失敗から学びながら成長していく一人の人間として、子どもの未来を見据えた関わり方をしていきたいですね。
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