「石けんが有害物質に!?」シャボン玉石けんが訴えるPRTR制度の真実と知られざる企業努力


 

「石けんが有害物質に?」—この言葉を聞いて驚いた方も多いのではないでしょうか。実は、日本で使われている石けんの主成分が、国が定める「PRTR制度」の有害物質候補に挙げられたことがありました。無添加石けんのパイオニアとして知られるシャボン玉石けんが、この問題に対して意見書を提出した裏側には、知られざる企業努力と、石けんを愛する人々の思いがありました。

この記事では、専門用語になりがちな「PRTR制度」を分かりやすく解説しつつ、なぜ石けんが有害物質の候補になったのか、そしてシャボン玉石けんの行動が持つ本当の意味について深く掘り下げていきます。

※シャボン玉石けんが投稿したポスト内、「第一種指定有害物質」は、「第一種指定化学物質」の誤りと思われます。


そもそも「PRTR制度」って何?

(PRTR制度の解説)
PRTR制度とは、「化学物質排出移動量届出制度」の略称です。これは、有害性のある様々な化学物質が事業所から環境中にどれだけ排出・移動したかを事業者に報告させ、国がそのデータを集計・公表することで、化学物質のリスク管理に役立てることを目的としています。

具体的には、

  • 事業者の義務: 従業員が21人以上で、指定された化学物質を年間1トン以上(※特定の物質は0.5トン以上)取り扱う事業者は、その物質の排出量や廃棄物としての移動量を自ら集計し、国に届け出ることが義務付けられています。
  • 国の役割: 国は、事業者から提出されたデータに加えて、届出の対象にならない小規模事業者や家庭、自動車などからの排出量も推計し、これらの情報をすべて集計して公表します。

この制度があることで、私たちは自分の住んでいる地域の環境中に、どんな化学物質がどれくらいあるのかを知ることができます。そして、国や企業、市民がその情報を共有し、協力して化学物質によるリスクを減らしていくことを目的としています。環境を守るために、非常に重要な役割を担っている制度なのです。


石けんが「有害物質」とみなされた背景

(石けんが候補になった理由) この制度の対象となる「第一種指定化学物質」の候補に、石けんの主成分である「脂肪酸カリウム」と「脂肪酸ナトリウム」が挙がったのは、ある毒性評価試験で水生生物への高い急性毒性が示唆されたためでした。しかし、この評価には多くの専門家から異論が唱えられました。

  • 優れた生分解性: 石けんは、一度環境中に出ても微生物によって素早く分解されます。
  • 過去の経緯: 実は、過去にも同様の議論が起こったことがあり、その際も「生分解性」が考慮され、指定は見送られています。
  • 消費者の誤解: 石けんが「有害物質」として指定されることで、安全な石けんを使う消費者全体に誤解を招く懸念がありました。

これらの反対意見が考慮され、2021年の見直しでは、石けん成分の指定は見送られることになりました。

さて、本題です。そんなPRTR制度の「第一種指定化学物質」の候補に、私たちの生活に欠かせない石けんの主成分が挙げられたのはなぜでしょうか。

石けんの主成分は「脂肪酸カリウム」と「脂肪酸ナトリウム」です。実は、2020年に環境省と経済産業省の合同会議で、この2つの物質がPRTRの対象候補として検討されました。

その背景には、ある「毒性評価試験」がありました。

その試験では、石けん成分が「水生生物に高い急性毒性を示す可能性」があるという結果が出たのです。PRTR制度の対象物質は、人の健康や生態系に有害なおそれがある化学物質が選定されるため、この試験結果を根拠に、石けん成分が候補リストに載ってしまったというわけです。

しかし、この議論に対しては、石けん業界だけでなく、消費者や有識者からも強い反対意見が噴出しました。

主な反論のポイントは以下の3つです。

  • リスク評価の再検討を! 石けん成分は、確かに実験室内の高濃度な環境では毒性を示すかもしれません。しかし、石けんには「生分解性」という優れた特性があります。これは、環境中に排出されると、微生物によって水と二酸化炭素に素早く分解され、無毒化される性質のことです。この分解されるまでの過程を考慮せず、単純な実験データだけで「有害」と判断するのは、あまりに現実的ではないという指摘が多数寄せられました。
  • 過去の教訓を活かせ! 実は、同様の議論は2008年にも一度行われ、その際も同様の理由で指定が見送られています。二度あることは三度あると言いますが、なぜ同じ議論が繰り返されるのか、という疑問も投げかけられました。
  • 消費者の混乱を招く! もし石けんが「有害物質」として正式に指定されたら、消費者はどう思うでしょうか?「石けんは使わない方がいい」「環境に悪い」といった誤解が広まり、手洗いや食器洗いといった、清潔な生活に不可欠な習慣をためらわせることになりかねません。

こうした多くの意見や懸念を受け、環境省と経済産業省は再度検討を行い、最終的に2021年の見直しでは、石けん成分の指定は見送られることになりました。これは、科学的なデータだけでなく、社会的な影響も考慮した慎重な判断だったと言えるでしょう。


シャボン玉石けんが提出した意見書。その「真意」を読み解く

(企業理念と責任感) 議論が一段落した後も、シャボン玉石けんが黙ってはいませんでした。彼らは「無添加石けんのパイオニア」として、そして「人と環境にやさしい石けん」を製造する企業としての強い責任感から、環境省に対して「PRTR制度に関する科学的知見に基づいたリスク評価の再検討」を求める要望書と有害性報告書を提出したのです。

この行動の背景には、以下の二つの大きな理由が考えられます。

  1. 石けんの正しい情報を伝える: 石けんが「有害」と誤解される可能性を放置せず、科学的なデータに基づいて正しい情報を社会に伝え続けること。
  2. 将来への備え: 今回は見送られたものの、将来再び同様の議論が起こる可能性に備え、その土壌を整えること。

これは単なる反対意見ではなく、自社の企業理念である「環境保全」を徹底するための一歩であり、「正しい情報を社会に伝える」という強い使命感に基づいた行動だったと言えるでしょう。


メーカーによって違う!「石けん」の奥深い世界

さて、ここまでPRTR制度と石けん成分の議論を見てきましたが、一口に「石けん」と言っても、その成分や特徴は千差万別です。メーカーによってどのような違いがあるのか、少し掘り下げてみましょう。

石けんの主成分は、動植物の油脂から作られる「脂肪酸」と「アルカリ」を反応させて作られる「脂肪酸塩(石けん素地)」です。この石けん素地に何を使うか、何を加えるかによって、その個性は大きく変わります。

  1. 主原料の「油脂(脂肪酸)」の違い
    • 牛脂・パーム油: 固く溶け崩れしにくい石けんになり、さっぱりとした洗い心地です。一般的な固形石けんに多く使われます。
    • ヤシ油: 泡立ちが良く、洗浄力も高いのが特徴です。
    • オリーブ油・椿油: きめ細かな泡で、保湿力が高く、しっとりとした洗い上がりになります。高級石けんや手作り石けんで使われることが多いです。
  2. 製造方法の違い
    • 機械練り: 大量生産に向いており、固く溶け崩れにくい石けんが作れます。
    • 枠練り: 時間をかけて熟成させる製法で、保湿成分を多く含んだ石けんができます。
    • コールドプロセス: 熱をかけず低温でゆっくり作る製法で、原料の特性や天然の保湿成分が残りやすいのが特徴です。
  3. 添加物の有無や種類の違い
    • 香料・着色料: 香りや色で個性を出すために加えられます。
    • 保湿成分: グリセリン、ヒアルロン酸、コラーゲンなどを加えて、肌への優しさを高めます。
    • 無添加石けん: シャボン玉石けんが代表的ですが、香料や着色料、酸化防止剤などを極力使わず、石けん素地のみで作られています。

このように、私たちの知らないところで、様々な工夫とこだわりが詰まっているのが石けんなのです。


もしPRTRに指定されていたら?~企業と環境のジレンマ~

最後に、もし石けん成分がPRTR制度に指定されていたら、どのような影響があったのかを考えてみましょう。

結論から言うと、「環境を守るための施策が、結果として小規模メーカーを苦しめる」というジレンマが生まれていた可能性が高いです。

PRTR制度の届出義務が生じるのは、従業員21人以上で、指定化学物質の年間取扱量が1トンを超える事業者です。

  • 大企業: 大手石けんメーカーは、専門部署や担当者を配置し、管理システムを構築する資金力や人的資源があります。
  • 小規模メーカー: 一方、小規模なメーカーや手作り石けん工房は、限られたリソースで、専門的な知識を要する届出書類の作成や、排出量の測定・管理に対応しなければなりません。

この負担は、単なる金銭的なコストだけでなく、時間的・精神的な負担も伴います。

例えば、届出のためのデータ収集や事務作業に、本来なら製品開発や品質向上に使うべき時間や労力を割くことになります。年間数十万円から数百万円にも及ぶ負担が、経営を圧迫する可能性も否定できません。

もちろん、環境を守ることは大切ですが、その規制が、日本の豊かなものづくりを支える小規模メーカーの活動を妨げてしまうことは、望ましいことではありません。

今回の石けんを巡る議論は、「環境保全」と「経済活動」のバランスをいかに取るかという、現代社会が抱える重要な課題を浮き彫りにしたと言えるでしょう。

シャボン玉石けんの行動は、このジレンマに一石を投じ、石けんの安全性を科学的に証明することで、企業の社会的な責任と、日本のものづくりの未来を守るための、大切な一歩だったのです。


環境と経済のバランス。シャボン玉石けんの行動から私たちが学ぶこと

(結論) もし石けんがPRTR制度に指定されていたら、資金力や人的資源の少ない小規模な石けんメーカーは、届出義務の事務作業やコスト負担に苦しんでいたかもしれません。シャボン玉石けんの意見書提出は、自社のためだけでなく、石けん業界全体、ひいては環境保全と経済活動のバランスを考える上で、非常に重要なメッセージを投げかけるものでした。

この一件は、私たちが普段当たり前のように使っている製品にも、こうした「見えない企業努力」や「社会的な背景」があることを教えてくれます。これからも、製品の背景にある物語に目を向け、賢い消費者として選択していくことが求められているのかもしれません。

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