なぜ日立は黒字の白物家電部門を売却するのか? 経営戦略とファンの思い
【考察】日立、白物家電売却は時代の終わりか、新たな始まりか?
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6547997のニュース記事から考察するブログです。
日立製作所が、長年日本の家庭を支えてきた白物家電部門の売却を検討しているというニュースに衝撃が走りました。特に、韓国企業が買収に意欲を示しているという報道は、多くの人にとって寂しさや戸惑いを伴うものです。私も、洗濯機は日立のビッグドラムを長年使っていますので寂しい気持ちになりました。
今回は、このニュースの背景にある日立の経営戦略と、長年ファンが抱く複雑な思い、そして日本のものづくりの未来について考察します。
赤字ではない。だが、日立の基準には達していなかった
日立の白物家電事業は、売却が検討されていた時期においても黒字を維持していました。しかし、日立が掲げる厳しい経営目標から見れば、その収益性は十分ではなかったのです。
日立は中期経営計画で、全社の営業利益率8%を目標に掲げています。しかし、白物家電事業の利益率はこれよりも低い水準に留まっていました。家電市場は、中国や韓国の巨大メーカーとの激しい価格競争にさらされており、利益を出すことはできても、日立が目指す高い収益性を確保することは困難だったのです。
収益性の改善:白物家電事業は黒字であるものの、競合の激化により利益率が低いとされています。日立は、鉄道、エネルギー、デジタルソリューションといった、より高い利益率が見込める事業に経営資源を集中させることで、企業全体の収益性を向上させようとしています。
- 事業ポートフォリオの転換:従来の「モノ」を売るビジネスから、データやAIを活用した「コト(ソリューション)」を提供する事業へと、ビジネスモデルを大きく変革しようとしています。白物家電の売却は、この転換を加速させるための重要なステップです。
- グローバル競争からの脱却:白物家電市場は、中国や韓国の巨大メーカーとの激しい価格競争にさらされています。この競争から撤退し、より付加価値の高い分野で戦うことで、日立は企業の競争力を根本から高めようとしているのです。
つまり、日立の判断は、現状維持のための「生き残り戦略」ではなく、未来の成長を加速させるための「攻めの成長戦略」であると言えるでしょう。
この「攻めの成長戦略」の核心には、「誰でも作れる白物家電」のような価格競争が激しい分野から撤退し、「日立でしか作れないモノ」に注力するという明確な方針が見て取れます。
日立の白物家電には、インバータ技術による高い省エネルギー性能や、独自のデザインといった強みがありました。しかし、これらの技術は海外メーカーも追随し、差別化が難しくなっています。
一方で、日立が現在注力しているのは、鉄道、電力、ヘルスケア、デジタル技術(Lumada)といった、高度な技術力や専門的なノウハウが不可欠な分野です。たとえば、
- 複雑な電力網を緻密に制御する「パワーグリッド」
- 鉄道の運行管理や保守をデジタルで効率化するシステム
- 医療データの解析や診断を支援するAIソリューション
これらは、長年培ってきた重電メーカーとしての技術力と、近年強化しているデジタル技術を組み合わせることで、初めて実現できるものです。日立は、こうした他社が容易に模倣できない領域に経営資源を集中させ、圧倒的な技術力を武器に、グローバルリーダーとしての地位を確固たるものにしようとしているのです。
「モーターの日立」から「Lumadaの日立」へ
日立の洗濯機といえば、強力なモーターが生み出す「ビートウォッシュ」が有名でした。「モーターの日立」という評判は、まさに長年培ってきた技術力の証です。しかし、日立がこれから目指すのは、この圧倒的な技術力を活かした、より高付加価値な事業です。
それが、日立のデジタルソリューション事業「Lumada(ルマーダ)」です。
Lumadaは、「照らす・解明する(Illuminate)」と「データ(Data)」を組み合わせた造語で、顧客のデータを活用して課題を解決するサービスです。日立が長年培ってきた鉄道やエネルギー、製造業といった分野の深い知識と、AIなどの最新デジタル技術を組み合わせることで、他社にはないユニークなソリューションを提供しています。
【Lumadaの具体的な活用事例】
- 製造業: AIを活用した生産計画の自動化で、生産性を向上。
- 交通: デジタル技術で都市の交通網を統合し、利便性を向上。
- エネルギー: 再生可能エネルギーの発電量を予測し、電力網を効率的に運用。
白物家電事業の売却は、このLumadaをはじめとする成長分野に経営資源を集中させ、日立が新たな時代を切り開くための、大胆な一歩なのです。
白物家電部門売却の懸念点とメリット
白物家電部門を海外企業に売却することには、いくつかの懸念点と同時に、明確なメリットも存在します。
【懸念点】
- 雇用の不安:国内の生産拠点や販売・開発部門の雇用がどうなるかという懸念は避けられません。
- ブランドイメージの低下:長年培ってきた「日立」ブランドの信頼性やアフターサービスが維持されるかどうかが課題となります。
- 技術流出:日本の高い技術力やノウハウが海外企業に流出してしまうリスクもあります。
【メリット】
- 経営資源の集中:売却で得た資金や人材を、成長分野(デジタル、社会インフラなど)に集中させることができます。
- グローバル競争からの脱却:価格競争の激しい家電市場から撤退し、より付加価値の高い事業に注力できます。
- 企業価値の向上:事業構造の改革は、株主からの評価を高め、企業価値の向上につながります。
これらのメリット・デメリットを天秤にかけ、日立は自社の長期的な成長のために、売却という決断を下そうとしているのです。
日立ファンが抱く複雑な思い
経営戦略としては合理的でも、長年日立の製品を愛用してきたファンにとっては、寂しさを感じるニュースです。
「熱狂的な日立の白物家電のファン」がいることは、十分に理解できます。なぜなら、白物家電は単なる道具ではなく、日々の暮らしに寄り添う存在だからです。特に、「日立はモーターが強いから洗濯機は日立」という評判は、単なるイメージではなく、長年にわたる技術開発の成果がユーザーに評価されてきた証拠と言えるでしょう。長年にわたる高い品質への信頼、家族の思い出、そして日本のものづくりへの誇り。これらが、日立の家電には詰まっていました。
企業が時代の変化に対応するため、ときに非情とも思える決断が必要になることは理解できます。しかし、長年築き上げてきた顧客との信頼関係や、ブランドが持つ文化的価値をどう継承していくのか。これは、日立だけでなく、多くの日本企業が直面する課題なのかもしれません。
時代の終わりか、新たな始まりか
このニュースに、長年日立の製品を愛用してきたファンの方々が寂しさを感じるのは当然のことです。
「日立製なら安心」「長持ちするから信頼できる」──。
日本の丁寧なものづくりを象徴する日立の家電は、多くの家庭にとって、単なる道具以上の存在でした。その事業が他社に引き継がれることは、一つの時代の終わりを告げるようで、心を揺さぶられます。
しかし、日立のこの決断は、日本の製造業が新たなステージに進むための試練でもあります。日立が「白物家電」という一つの時代を終え、デジタル技術や社会インフラといった分野で世界をリードすることができれば、それは日本全体の産業構造が高付加価値なものへと進化する、新たな始まりとなるでしょう。
日立の決断が、日本の未来にとって吉と出ることを願ってやみません。
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